理由2 3

NOVEL HOME   INDEX  BACK NEXT



 自分の行動が理解できない、ということはそう珍しいことではない。しかし、一番理解出来ないのは自分自身だ、とか、哲学的な台詞で解決してみても、できないという現状がどうにかなるわけでもない。

 そんな回りくどいことをくどくどと、考えながら、隼人は一人、帰宅の途についていた。いつもなら、現在の彼女である莉茉と帰っているところなのだが、用事があるので先に帰ってくれと言われたために、今は一人だ。その状況が何となくつまらないと感じている自分がいて、それではまるで、莉茉と帰るのを楽しみにしていたみたいだと、また思考の渦に嵌る。

 そんな筈はないのだ。莉茉に対して特別な感情など持っていない。
 でも、それならば何故、あんなことをしたのだ。


 始まりはいつもと同じ。その後が少し違った。莉茉は隼人に何かを求めることをしなかった。ただ提案をしてくるだけで、それさえも、隼人が断ればあっさりと引き下がりそうなものでしかなかった。独占、執着、束縛、といった類の、お決まりの要求は一切無い。
 昼休みと放課後を共有する、それだけの関係だと言ってもいい。それなのに、時折鋭く隼人の内面に踏み込んでくることがある。それは、莉茉が自覚していることではないのかもしれないが、まるで図ったように隼人の心を揺さぶるのだ。初めてそれを味わったとき、はっきり言って不愉快だった。何も知らないくせに、どうしてそんな言葉を吐けるのか。自分の言った言葉で、隼人がどれだけ動揺しているかも知らない、そんな様子に尚更腹が立った。
 でもそのうち、莉茉との時間が増えていくにつれて、悟った。負けているのは自分なのだと。勝負をしていたわけでもないし、勝敗を決めるようなことなど何も無かったけれど、何故かそう思えた。ただそれは、そういう心境に至ったというだけで、莉茉を好きとか、そんな風に思ったわけでは決してない。

 そんな筈はないのだ。だったらどうして、と、また堂々巡りを繰り返す。

 今まで傍にいなかった、変わったキャラクタの所為だと思う。
 不意打ちのように浮かぶ笑顔が、瞼に焼き付いて離れないのも、可笑しな言動に思いっきり笑って、それでいて、内心では可愛いとさえ思っていることも、ただ興味を持っているだけで、これは好意ではないのだ。

 だって自分は、紗耶が好きなんだから。



 ぶるりと制服のポケットの中で携帯が震えた。
 取り出して確認すれば、携帯は着信を知らせている。相手は城野総司だった。

「何の用だよ」

 文句を言ってみても、返事が返ってくるわけでもなく、かと言ってこのまま無視するわけにもいかない。渋々と電話に出ると、総司のどこか焦ったような声が聞こえた。

「お前今どこにいる!」
「何でそんなこと聞くわけ?」
「いいからどこだよ!」
「……帰り途中だよ。もうすぐ駅」
「今すぐ学校に引き返せ」
「はあ?!」
「急げよ」
「ちょ、待てって、何で戻んなきゃなんねーんだよ」
「日向さんのことだ」
「日向?」
「とにかく、今すぐ戻って来い」
「だから何でって、おい!」

 隼人は舌打ちをして携帯を口から離した。これ以上何を話しても、相手には何一つ伝わらない。総司は言うだけ言って切ってしまったのだ。
 腹を立てながら、このまま無視して帰ってしまおうとする。しかし、日向という名が出てきたことが気にかかる。その前にどうして総司が莉茉のことを知っているのか疑問に思ったが、隼人と付き合っていることが耳に入ったとしても不思議ではない。

 結局、隼人は折角歩いてきた道を、学校まで取って返した。息を切らせながら昇降口に着いたところで、携帯が今度はメールを受信する。総司からのメールは簡潔に、生徒会室に来い、それだけだった。


 そうして生徒会室にやって来た隼人が見たものは、莉茉と総司がまったりとお茶を飲んでいる、という理解しがたいものだった。


NOVEL HOME   INDEX  BACK NEXT

Copyright © 2007- Mikaduki. All Rights Reserved.
inserted by FC2 system