デート 4

NOVEL HOME   INDEX  BACK NEXT



 翌日の放課後、莉茉は玲奈の助言に従うことにした。理由は二つ。
 次に玲奈に会った時、話を聞かれることは目に見えている。まさか、していないなんて言えない。
 もう一つはゲームセンターという単語が莉茉の琴線に引っかかったからだ。久しぶりに行ってみたくなった。

 そんな理由で、莉茉は隼人と共に駅前を歩いている。

 欲しい本があるから付き合って欲しいと、適当に理由を付けてたので、まずは本屋へ。本当に欲しい本ががあったわけではなかったので、適当に目に付いた料理本を購入した。母親がパスタの本が欲しいと言っていたから、渡せば引き取ってくれるだろう。

「ありがとう、付き合ってくれて」
「別に」

 購入した本を持って本屋を出る。確か、ゲームセンターはこの近くだった。
 それとなく、適当に歩き出した先に、目当てのゲームセンターを見つける。

「ねぇ、ちょっと寄っていかない?」
「いいけど」

 ゲームセンターの中は喧しいほどに音楽が溢れている。もっと静かに楽しめるようにはならないものかと、思ってはいるが、ゲームセンターは喧しい所だという認識が世間では浸透してるためか、一向に改善される気配はない。


 中にはたくさんのクレーンゲームが所狭しと並んでいる。隼人はその内の一つに近づいて中を覗いた。中にはピンク色をしたウサギのキャラクターのぬいぐるみ。

 バッグに揺れるウサギのキーホルダーが頭に浮かぶ。


 どうやら狙いを付けた隼人を置いて、莉茉は奥へ足を進めた。入って直ぐに位置している物は客寄せ用の商品で、設定が難しくなっている。入荷したての商品だから早々に取られては困るのだ。それに比べて外から見える位置にある物はもう少し甘い。全く取れていないのでは客も入りたいとは思わないだろう。適度に獲得できるようになっているのだ。そして、奥の人があまり行かないところにあるのはかなり甘い設定になっている。切り替え商品で、このまま取られることが無ければ廃品扱い。その為に取り易くなっている。取り易くなってはいるが、はっきりいってここにあるのは売れ残りであって、欲しいと思える品があるかどうかは運次第だ。

 覗いて歩きながら、一つの前で立ち止まる。
 黄色と青の掌サイズのぬいぐるみ。アニメのキャラクターだ。玲奈が好きで、原作の漫画を莉茉に貸してくれた。登場するのは5人の宇宙人で、見た目はカエルに似ている。一番人気のあるキャラクターは緑、玲奈が好きだと言っていたキャラクターは黒。そのどちらも無い。黄色が一番嫌いだと言っていたが、実は莉茉は黄色のキャラクターが一番好きだった。青もセットならいいか、と玲奈へのお土産にしようと、コインを入れた。



 クレーンがウサギの頭を掴む。そのまま上昇し、上がりきったところでクレーンが揺れ、ウサギが落ちた。

「くそっ」

 これで通算5回目の失敗。
 別にどうしても欲しいわけじゃない。一度目の失敗で、自分がこれを手に入れたってどうしようもないと気付いたのに。やっぱり俺じゃ駄目なんだと、このウサギにさえ馬鹿にされているような気がして、むきになった。
 でも結果は同じだ。手に入れられない。

 手に入らないんだ。


「何回目?」

 声のした方を見ると、今の彼女ってことになってる日向莉茉がいた。手にはぬいぐるみを二つ抱えている。そういえば一緒に来た筈なのにいつの間にかいなくなっていた。

「何回目かって聞いてるんだけど」
「え? ……5回目、だけど」

 きつい物言いに思わず正直に答えてしまう。

「ここアーム弱いから、普通にやってたら取れないよ」

 そんなわかったようなことを言うが、抱えている二つの戦利品を見れば反論することも出来ない。そして、持っていたぬいぐるみをバッグに押し込むと店員を呼んだ。

「すいません、何回もやってるんですけど全然取れなくて。並べ替えて貰えませんか?」

 やってきたアルバイト風の青年は、莉茉の言葉に何故か吃驚したような顔をした。再度莉茉に促されて、持っていた鍵でケースを開けて、取り易いように並べ替えてくれた。

「これで、押さえつけて落とせば取れるよ」

 並べ替えられたぬいぐるみは穴に身体半分を乗り出すようにしていて、ほとんど落ちそうになっている。言われた通りにクレーンを動かせば、呆気ないほど簡単に取れた。

「要は、やり方だよ」

 帰ろうか、と笑顔で言われてゲームセンターを後にする。

 手に入れたぬいぐるみを見て思う。欲しいから、手に入れたいから、その為の努力を自分はしただろうか。奪われたからって、直ぐに諦めて、でもぐちぐちと諦めきれないでいる。


 随分とファンシーな物を欲しがるんだな、と隼人が手にしたウサギを見て考える。実は乙女チックな奴だったのか、それとも、莉茉と同じ理由だろうか。誰かにあげるために。

「やる」
「え?」

 急に押し付けられたのは、さっきまで隼人の手にあったウサギ。

「いいの?」
「別に欲しかったわけじゃねぇし、つか取ったのはお前みたいなもんだし」
「……ありがとう」

 正直、可愛すぎる見てくれのぬいぐるみは莉茉の趣味じゃない。欲しいなんて全く思わない。
 だけど、悪くない気分だった。

 否、無性に嬉しかった。


番外編にこの直後の話があります。INDEXからどうぞ

NOVEL HOME   INDEX  BACK NEXT

Copyright © 2007- Mikaduki. All Rights Reserved.
inserted by FC2 system