デート 2

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 体育館と校舎を結ぶ渡り廊下を歩きながら、莉茉は先程見た結菜のフォームを脳裏にリプレイさせていた。

 莉茉が見ている最中、結菜がシュートを放ったのが6本。その内レイアップシュートが2本で、2本とも決めた。残り4本がジャンプシュート、3本外し、休憩直後の1本だけ決まった。
 外では音も無く雨が降り続けている。じめじめと湿気がこもり、快適とは言い難い。
 雨は嫌いだと言っていた通りに、結菜のコンディションは梅雨の時期はあまり良くない。とは言っても、集中力が少々鈍る程度のもので、莉茉が見ているという多少のプレッシャーで十分対処できる。
 
「私は嫌いではないけど」

 通路と屋根しかない渡り廊下は、風が吹けば容易く雨が吹き込んでくる。それを避けるため、風上とは逆側の端を歩く。
 
 
「きゃあっ!」

 聞こえた悲鳴の先には、渡り廊下の校舎側の出入り口で転んだ女性徒がいた。
 雨に濡れて滑りやすい場所なのだ。ここを改善しないのは明らかに学校側の怠慢だろう。
 
「大丈夫?」

 どうにか手摺に縋り付いて、膝をつくことは免れたらしい。反射神経はそこそこ良い。逆を言えばそこそこだから引き起こされた事態だとも言える。

 こんなに目の前で転ばれて、無視して通り過ぎることは流石にできない。都会の人間は冷たいと言うけれど、本当に目の前で転ばれたなら手を差し出すなり、大丈夫と声を掛けるなりするものだ。
 莉茉が手を差し出すと、女生徒は礼を言って手に掴まった。
 
 ぱっちりとした目が印象的な女生徒だった。小動物系の顔立ちというやつだろう。背はそんなに莉茉と変わらないが、こういう女の子を男は守ってあげたいとか思うのかもしれない。
 このあげたい、という精神が莉茉は好きではない。傲慢ささえ感じる言い草ではないか。それに、他人を守る前に自分をしっかりと守れるようになってから言うべきだ。少なくとも高校生の身分で口に出来る者がいるとは思えない。
 
「ありがとうございま……あっ」

 何かに気付いたかのように言葉を中途半端に止めて、莉茉を見つめる。
 見られている莉茉は目の前の顔に見覚えは無い。そもそもほとんどの生徒の顔に見覚えが無いというのが正しい。
 恐らく、隼人と付き合っていることによるものだろうと判断する。ここ十日程で莉茉本人ではなく、駒川隼人の今の彼女として広く認識されるようになってしまった。
 
 


「紗耶、大丈夫か?」
「うん、大丈夫」

 すれ違って直ぐに、後方で声がした。足を止めぬまま振り返るとさっきの女子に一人の男子が話しかけていた。
 その男子に不思議と見覚えがあった。莉茉が顔だけでも知っているという時点で校内では相当な有名人の筈だ。しかし、結局思い出すことはできなかった。


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