デート 1

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 体育館の床にバスケットボールが弾む音が響く。放課後の体育館はバスケ部の活動場所だ。二面あるコートの一面は男子バスケ部、もう一面は女子バスケ部が使っている。バスケ部に所属する結菜は当然そこにいた。
 ディフェンスをかわし、レイアップシュートを決める。笛の音を合図に休憩に入り、タオルで汗を拭く。ふと二階のギャラリーを見上げると、見慣れた女生徒の姿があった。
 この距離でははっきりと見ることはできないが、恐らくにやけた笑顔を口元に微かに貼り付けて見ているのだろう。
 
 ――結菜のフォームは綺麗だ
 
 褒め言葉だと、素直に受け取れないのは相手が莉茉だからだ。莉茉の視点は時々エロオヤジのようである。ただ違うのは、そこに性的な意味合いが含まれないところだ。
 
 
「ねえ、あの子ってさ、今の駒川の彼女だよね?」
「え? どこ?」
「あそこのギャラリーにいる子」
「えー? あれが?」
「今までと違うよね」
「全然違う! ありなの?」
「そんなこと私に聞かれても困るけどさ、とりあえずまだ別れてはいないみたい」
「でも、どうせまた直ぐ別れるよね」
「多分ね」
「じゃあさ、そしたらあたしいってみよっかな。あの子でいいならオッケーでしょ」

 莉茉が隼人と付き合って十日。一応交際は続いている。
 女が恋愛事の噂話が好きなのは、ここ女子バスケ部でも同様で、隼人の話は度々話題に上がる。もっとも、部員の一人が隼人に告白し、交際二週間で別れてからは、大っぴらに話されることはなくなったのだが。
 否応無しに耳に入ってくる話を総合すると、ほとんどを隼人の方からふっているようだ。
 その原因は独占欲。
 もっと一緒にいたいとか、好意を言葉や動作で示して欲しいとか、そんな、付き合っていれば当たり前の欲求を示されると、もうこれ以上は面倒だというように別れを告げるらしい。
 それなら未だに莉茉が隼人と別れないことも合点がいく。
 莉茉が隼人に対して独占欲を示すことなどあり得ない。これまで隼人に告白をして付き合ってきた子達とは、そもそもの動機が違うのだから。
 
 駒川隼人がこれまで交際してきた一人一人の詳細を知っているわけではない。その中には過剰な欲求をしてくる子もいたかもしれないが、相手に対して欲が出てくるのは当然のことだろう。
 付き合って、相手を知って、もっと一緒に時間を共有したいと思って、もっと自分のことを知って欲しいと思って、もっと触れ合いたくて、そんな自然な欲求を切って捨てる。
 そんなことを繰り返すならどうして最初から断らないのだろう。それが腹立たしくて仕方ない。
 
 莉茉の興味の対象として目を付けられたことには同情するが、それで少しでも痛い目を見るのなら、きっと自業自得だろう。
 
 
 休憩が終わり、再びコートに戻る。
 ギャラリーにいる莉茉に軽く手を上げると、気付いた莉茉が口を動かす。
 
 『ジャンプシュートが見たい』
 
 読唇した言葉通りに結菜がジャンプシュートを決める。
 
 
 
「やっぱり、レイアップよりジャンプシュートの方がいい」

 満足そうに莉茉は笑う。
 レイアップシュートよりもジャンプシュートの何が良いというのか、知っているのは莉茉だけだ。


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