昼食 6

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  昼休み、学校の中庭はそのほとんどがカップルで埋め尽くされている。そんな中、自棄のように男子数人が騒ぎ立てていることを除いては。
 その中庭のベンチの一つに、莉茉と隼人はいた。結菜がここで食べるのが常識だと主張するのに流されるように、ここにやってきた。
 天気の良い日に屋外で弁当を広げる。ピクニック気分を味わえてとても清々しい。風が吹いて弁当に砂が入ることと、机が無いからベンチの上に弁当を置かなければならず、食べづらい姿勢で食事をする不都合さが改善されればもっと良い。

 おにぎりを一つ頬張ると鮭が出てきた。
 日差しに目を細めて、莉茉はふわりと笑う。
 当たりだと、内心で喜ぶ。


 どうしてそんな風に、幸せそうに物を食べるんだろう。
 微笑む莉茉を隼人は不審そうに見やる。
 あいつも、美味そうな顔して食ってたな、などと余計な感情が胸に浮かぶ。舌打ちしたい衝動に駆られた。
 最近妙だ。時折不愉快な感情が頭を過ぎる。
 追い払うように軽く頭を振って、向けた視線の先に、カーテンの閉まった窓を見つける。


 鮭の次はふりかけだと、弁当箱に手を伸ばした莉茉は、苦い表情を浮かべた隼人を見て焦った。
 隼人が手に持つおにぎりから覗く、赤い果肉。考えなかったわけではない。自分も嫌いなのだし、他にも苦手とする人間がいるのは当然だ。でも、一応莉茉は聞いたのだ。苦手なものはないかと。梅干は大丈夫かと、はっきり聞かなかったのは、正直なところ意図してのことではあるのだが。
 苦手だと言われたら、流石に差し出すわけにはいかない。そうすれば必然、自分で梅干おにぎりを処理することになる。
 無理だ。

 躊躇い無くざらついた面が表になった、たった一つのおにぎりを隼人に渡した自分勝手な行動を少し後悔する。


 「えと、もしかして、梅干駄目だった?」

 急に振られた声に、我に帰る。手にした食べかけのおにぎりに目を落とすと、中から梅干が覗いていた。

 「いや、大丈夫」

 そう言って、本当に平気そうに梅干を平らげていく隼人を横目に、だったら紛らわしい顔をするなと思う。でもそれなら、何が原因だったのだろう。
 さっきまで隼人が見ていた方向に目を向ける。来客用の玄関の、右側。そこにあるのは何だったろう。印刷室だったろうか。だが、ぼんやりと目を向けていたというだけで、はっきりと何を見ていたわけではないかもしれない。


 「美味いよ、これ」

 ハンバーグを口にした隼人の言葉に、当然だと答えそうになって慌てて呑み込む。

 「本当? 良かった」

 弁当を完成させたことに、それなりの満足感を感じてはいたが、それを食べてくれる人がいて、更に美味しいと言ってくれる。比にならないくらい嬉しいと思う。
 何の打算も無く、莉茉の顔にはにかんだ笑顔が浮かぶ。

 その顔は、しっかりと隼人の目に映っていた。


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