昼食 4

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 付き合いたての高校生の男女が、下校中にする会話とは何だろう。これまでの莉茉の経験ではその答えは出ない。初々しさというものを盛り込みたいと思ってはいるが、具体的な内容が無ければどうにもならない。無言で歩くことに多少の気まずさを感じながら、必死で話題を探す。
 共通の話題があればいいのだが、そもそも何が共通しているかわからない。そう考えて、そうか、聞けばいいのかと思い至る。

「駒川君は部活とか入ってるの?」

 とりあえず、無難と思われる質問をしてみる。
 この質問に隼人は驚いた。自分に告白してくる女子というのは、気持ち悪いほどこちらのことを知っているのだ。交友関係に、授業の選択、よく行くショップに、使っている香水。どうやって調べているのだろうと思うと寒気がする。完全にプライバシーの侵害だ。そういう輩は自分が部活動をしていないことなど当然のように知っているのだ。だから一緒に下校しようなんて言ってきたんだろう。そう、思っていたのだけど。

「いや、入ってないけど」
「そうなんだ」

 考えてみればこうして授業が終わって直ぐに下校しているのだから、部活になど入っていないだろう。余程活動していない部活なら別だが。そういう莉茉も帰宅部であるのだけれど。
「入ろうとか思わなかったの?」
 高校の部活動というのはある種、美しくさえあるというのが莉茉の持論だ。やっていて損はない。
「そう言うお前は?」
 質問には答えず、聞き返した。
「私は帰宅部」
「そっちだって入ってねーんじゃん」
 自分を棚に上げて何を言う。
「単に一つに絞れなかっただけ」
「絞るって、そんなにやりたいのあったのか?」
「やりたいってわけではないけど」
 基本的にやるより見る方が好きなのだ。そんな莉茉の一押しは弓道部。あの袴姿がいい。長い髪を高い位置で一本に結い上げ、緊迫した静謐の中放たれる矢。その反動で揺れる髪が、晒された項を撫でる。矢を射る所作は一つ一つ丁寧で見ていて気持ちがいい。
 
  莉茉が内心で何を考えているかなど露知らず、二人の会話は進む。

「運動神経良さそうなのに、勿体無い」
「中学の時はバスケやってたけど」
「バスケ好きだよ。友達がバスケ部なんだけど、フォームがすごく綺麗なの」

 バスケ部に入っているのは結菜だ。時々見に行く。ジャンプシュートをしている様が一番好きだ。跳ね上がり、流れるように撓る身体の、先端のから放たれるボール。そのボールの軌跡と共に下降し、ユニフォームの裾が僅かに翻る。瞬間覗く肌と、着地の反動で揺れる胸元。特に結菜の一連の動きはとても綺麗だ。思い出して、近い内に見に行こうと決める。


 ――隼人のフォームはすごく綺麗

 綺麗だと、笑顔で褒める顔がチラつく。綺麗と褒められたって嬉しくないなんて、悪態を吐いて、内心を押し隠した。本当は凄く嬉しかった。唯一、あいつより上だと、認められたと思った。だから、バスケは好きだった。
 
 だから、バスケはやめた。


 隼人の顔に影が過ぎる。それを横目で見る。

 いつか見た、あの顔だ。


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