昼食 3

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 告白をして付き合うことになってから三日間、莉茉は駒川に一度も会わなかった。
 駒川にしてみれば、常に受身の付き合いしかしていないため、相手が会いに来ないならそれはそれで構わない。こちらから会いに行こうとは露ほども思わない。
 莉茉にしてみれば、会うということが交際にとって最重要事項だということを理解していないというところが問題だが、莉茉なりに必要なことをしていたに過ぎない。
 必要なこととは、先ず、携帯電話を入手すること。これは比較的に容易に達成された。世間では物騒な事件が頻繁に起こっている。流石に直ぐ傍で何かが起こったとは聞かないが、莉茉とて立派な年頃の女の子である。標的にされない保障はどこにもない。両親が再三携帯を持つように勧めたのはそういう理由だ。だから、莉茉が欲しいと言えば、やっとその気になってくれたかと、喜んで買い与えたのだった。
 次に情報収集。どうやら普通の男女交際をする上で、自分は知識が足りないらしいと気付いた。気付くのが遅すぎると、結菜は言ったが、気付いただけでも良かったというのは兄の言だ。
 最後に、弁当を作る、為の練習、である。
 これには苦戦を強いられた。
 莉茉の家で料理をするのは母のみで、手伝いすらしたことがない。よって、料理は全くできない。莉茉は練習一日目の時点で、弁当を作ることを諦めた。諦めたのだが、手作り弁当は男のロマンだと主張する兄に、ほとんど脅迫に近い形で押し切られ、練習は続いていた。兄が食べるわけでもないのに、何があそこまで駆り立てるのだろう。どちらにしろ、弁当を持っていくのはまだ先になりそうだと、自分の作った料理を見て思うのだった。

 何はともかく、最短記録を更新には至らず。
 それが良いのか悪いのか、受け取り方は人それぞれ。






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 放課後、莉茉は1−Dの教室へと向かっていた。
 1−Dは駒川隼人が在籍しているクラスである。
 気付けば、交際四日目、告白してから一度も会っていなかった。
 昨日、そのことを兄に話した時、もの凄い勢いで非難され、それを結菜に愚痴ると当たり前だと呆れられた。二人の一貫した意見は、とにかく会いに行けというもので、莉茉はそれを実行するため、こうして隼人の元に向かっているのである。
 莉茉が所属しているのは1−F、一年の教室のほとんどが4階に位置している中、F組だけが3階にある。よって、階段を上っていかなければならない。F組故の利点が仇になるとは、莉茉は自分の起こした行動に少し後悔した。

 4階の廊下を歩く。
 どうやら全てのクラスでSHRは終わっているらしく、廊下は教室から吐き出された生徒でざわついていた。
 D組の教室を覗くと、後方で数人の男子と話している駒川の姿が見て取れた。
 笑えるんだな、と当たり前のことを思い、室内に入っていく。

「駒川君」

 莉茉が声を掛けると、隼人は不機嫌な表情になり、やがて合点が行ったらしく、ああと素っ気無く対応した。
 隼人と話していた男子生徒は好奇心丸出しの不躾な視線を莉茉に注いだ。
 こういった視線に晒されることを莉茉は不快には思わない。自分が他人に向ける8割はこういったものであると自覚しているし、彼らがそういう行動に出る理由も理解できるからだ。
 ふいに哂いたくなったが、慌ててそれを我慢する。
 
「新しい彼女?」

 一人が隼人に聞く。また代わったという思いと、いつもと違う毛色にいぶかしんだという感じだ。
 隼人はそうとだけ言うと莉茉に身体を向ける。
 
「何か用?」
 投げやりな物言いだが、相手と向き合って話をしようという姿勢は評価できる。意外にきちんとしているらしい。
「うん、あの、一緒に帰れないかなって思って」

 この場にいる者、誰一人として気付かないが、莉茉は巨大な猫を被っている。壮大な演技の真っ最中。
 因みに、この三日間、情報収集のために読み耽った少女漫画が莉茉の教科書である。そこに登場する主人公の性格を総合した結果なのだが、内容に偏りがあったことは否めない。全ては結菜の妹の趣向である。

「あー、まあ、別にいいけど」

 隼人が思案したその一瞬、目線がちらりと宙を舞う。その視線が明確な標的に向けられたものであるのか莉茉には判断がつかない。尚且つどこに向けられたものなのかも。


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