妹と兄 (デート 4の直後の話)

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 莉茉の兄、櫂利(かいり)は自分の部屋で大学のレポートを書いていた。提出までまだ日があるため、タラタラとキーボードを叩いていた。そこに今櫂利が気に入っているアーティストの曲が流れた。携帯の着メロに設定している曲だ。
 ベッドの上に無造作に投げてあった携帯を手に取ると、相手を確認してから通話ボタンを押す。
 
「何?」

 相手は中学の時からの友人だ。
 
「莉茉ちゃん何かあったのか?」
「はあ?」

 久しぶりに連絡してきたと思ったら莉茉が何だというんだろう。
 
「変だったんだけど」

 自分の妹のことだが、莉茉は大体いつも変だ。でも、変であることが普通なので、変だと言うことはやはり変だったということだろうか。
 ……何だかよくわからなくなってきた。
 
「今日バイト先に来てさ、すいませんとか言われちゃったんだけど」
「家の妹はすいませんくらい言えるぞ」
「そりゃそうだろうけど、俺には言わないだろ」
「確かに」
「そこで納得されるのも悲しいもんがあるんだけど」

 仕方が無い。事実なんだから。
 
「やっぱさあ、莉茉ちゃんも女だったってことかな」
「どういう意味だ?」
「カッコイイ彼氏連れてた。女は男が出来ると変わるんだな。ちょっと変わり過ぎな気もするけど」
「ああ、そういうことか……」

 何とも、反応し難い。変わったといえば変わったが、一時的なものだし。自分の前では相変わらずだし。結局変わっていないわけだし。
 
「それよりお前はどうなった? 幼馴染の――」

 ブチッと一方的に会話を打ち切った。
 
 誰がお前に話すか。
 
 
 莉茉の部屋のドアをノックする。返事に促されて中に入ると莉茉は本を読んでいた。どうやら料理の本のようだ。弁当を作るために料理の勉強をし始め、母親の手伝いをするのはいいが、その代わりと言って、後片付けを全部押し付けてくるのが頂けない。
 
「今日ゲーセン行ったんだって?」
「行った」
「さっき柾弥から電話あって」
「積み方がいまいちだったから二個取り出来なかった」

 また、中動かさせたのか。
 部屋を見渡すと机の上にウサギのぬいぐるみがあるのに気付いた。
 
「珍しいな、こういうの」

 何となく手にとって見る。可愛らしい感じの物だった。莉茉の趣味とは違う。
 
「貰った」
「へぇ」

 彼氏に取って貰ったってことか。案外と微笑ましい交際をしてるじゃないか。
 
「今日、結菜が告白されてた」
「え!?」
「オッケーした」
「嘘だろ!!」
「嘘」
「っ」
「でも告白されたのは本当」

 妹の顔がにまーっと歪んでいくのをただ見つめる。
 
「早くしないと、誰かに取られるかも」
「わかってるよっ!」

 捨て台詞と共に莉茉の部屋を出る。
 ったくどいつもこいつも。
 そんなこと自分が一番分かってるさ。
 
 
 
 
 兄が出て行ったドアを見ながら莉茉は呟く。
 
「何を怖がってるんだか」



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