理由2 6

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 意外とお人好しだね、と言われたことがある。莉茉自身にはそのつもりはなかったけれど、結果として相手にはそう思えたのだろう。
 誰かの為に、という意識はあまりない。ただ、色々と莉茉が普段考えている中で、絡まり縺れる糸が、どうすれば解けるだろうと、そういった類のものがあって、そうして考えたら実行したくなる。良い結果が得られれば満足するし、悪い結果なら改善策を考える。
 それが莉茉の日常だ。
 莉茉に善意も悪意もない。
 だから、善意で莉茉がやったと言われ、感謝されるのは、莉茉にとってはこそばゆい。どちらかといば、非難される方が幾分かマシだ。





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「そうやって、自分一人の中だけに抱えても、駒川のためにはならない。勿論、君にも」

 こんな台詞を言うつもりはなかった。少なくとも、こんな、確実に確執が深まりそうな状況で、黙っていた事実を曝け出そうと考えていたわけではなかった。
 莉茉の言葉に、目の前の二人は傷ついているだろう。それは莉茉の本意ではない。傷つけたいなどという、加虐嗜好があるわけでもない。
 恐らく、彼らの抱えている問題は、どちらもが少しも傷つかずに解決することはできないだろうが、それは、きっと、莉茉の役目ではないのだ。こんな、第三者の人間に与えられた役割じゃない。

 そんなことを考えて、考えている自分を不思議に思う。
 多少感情的になっているような気がする。どうしてだろう。
 冷静になろうと無意識に考えたのだろうか、帰りに行きつけの和菓子屋で塩大福を買っていこうかと、関係ないことが頭を過ぎる。
 しかし、夕方のこの時間には既に売切れてしまっているかもしれない。人気の商品なのだ。
 少しでも確率を高くする為に急がなければならない。




「どういう……ことだよ」

 何から考えたらいいだろう。無意識に呟いた言葉に、漸く隼人はそう考えた。
 とりあえず、目の前にいる少女は誰だろうと考える。
 日向莉茉、一月程前に告白されて、現在付き合っている自分の彼女。
 そう、一ヶ月だ。一ヶ月、一緒にいた。四六時中一緒にいたわけではなかったけれど、それでも、莉茉のこんな様子を見たことはなかった。

 でも何故か、納得している自分がいた。どうしてだろう。
 わからぬことに考えを巡らすのに苛立って、もう一つの考えなければいけないことに集中する。

 知っていて、黙っていること。城野が隼人より優位に立っていること。隼人の行動理由。
 逆から考えれば簡単だ。隼人からしてみれば本人なのだから。
 会話の流れからすると、交際の仕方だろう。その理由、紗耶という想い人がいること。
 優位に立っているとすれば、年上で、成績が良くて、生徒会長なんてやっていて、品行方正を地でいくような生活をしていて、そして、何より、紗耶に想われている。恋人という確かな居場所に、城野はいる。
 知っていて、黙っていること。
 隼人自身が、隠していると、隠せていると、信じていたこと。
 間違っていればいい。そう願う。しかし、城野の顔を見て、そんな愚かな考えは一掃される。
 
 馬鹿じゃないのか。
 自分も。
 そして、目の前の、この、幼馴染も。

 馬鹿馬鹿しい。腹が立つ。何かに当り散らしたい。
 そんな考えばかりが頭を過ぎる。



 ガタンと大きな音がして、無防備な城野はびくりと身体を震わせた。莉茉はといえば、隼人が傍にある恐らく役員用の机を蹴り飛ばす様を見ていたので、来るべき衝撃に対する心構えがあったために、僅かに眉を引き上げる程度の反応しか見せなかった。

 鉄製だろうと思われる机の脚部分は、幸い変形することなく倒れている。机とセットになった椅子を道連れにして。
 倒れた机は妙に哀愁を誘っていうように見える、と莉茉は思う。
 机は机として機能する為に作られたのであって、サンドバッグの役目を内包して作られたわけではない。だが、学校という特殊な場所に納入されることが決まっていた時点で、青春時代の想いの捌け口として、理不尽な利用法も予想して然るべきかもしれない。
 それならば、同情は要らない、と突っ撥ねられるかもしれない。勿論、机に。


「君達には話し合いが必要だ。時間はいくらでもあるんだし、好きなだけやればいい。でもそれには私が邪魔だろうから、言いたいことを言ってさっさと帰らせてもらう」

 彼らの問題は彼らだけでどうにかすべきだ。
 正直に言えば、それは、自分が介入すべきではないだろうという殊勝な考えではなく、巻き込まれたくないという方が大きい。
 その考えでいくと、これから私が言うことに城野は無関係だろう。間接的には関わっていると言えなくもないが、これは隼人と莉茉の問題だ。
 より正確に言うのなら、隼人の問題と、莉茉の問題。

 さあ、終わりにしようか。


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