友人 1

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  莉茉が隼人の抱えている想いに気付いても、二人の関係に変化はない。それは、莉茉が隼人に好意を持って告白したわけではないからだ。間に感情が無い以上、必然的に変化はしないのだ。少なくとも、莉茉自身はそう思っている。
 

 二人の交際期間は三週間を過ぎていた。
 
 
 
 一体何の目的で、定期的に全校集会なんてものが行われるのか、莉茉には謎でしかない。わざわざ体育館に全校生徒を招集するに値する内容があるとは到底思えない。
 何度も聞かされた、わかりきった校則をくどくどと生徒主任の教師が話し、睡眠導入効果のある校長の長話を聞くのがこの学校の全校集会の主な内容である。その話を聞いて、一人でも人生を考え直すような人間がいるのなら、きっと未成年の犯罪は起きないだろう。
 
 無意味な集会がやっと終わりを告げると、それでもそのまま留まるよう指示される。終わりだと思った後のこれは通常より苛立たしい。始まる前に全校集会のあとも残るようにと言ってあれば心積もりが出来ているのに。教師にはそういった配慮が欠けている。
 
 ざわりと不満の声が上がる中、壇上に現れたのは生徒の一人だった。
 
 生徒会長、城野聡司。
 
 
 莉茉が人一倍疎いからという理由で知らなかったことだが、城野は女生徒から人気がある。
 生徒会役員は皆選挙で選ばれる。当然結果には人気が左右する。去年の選挙では会長候補は5人いた。これは例年に比べて多い数だ。いつもは多くて3人程度らしい。候補者は立候補によって決まるが、立候補後に生徒会役員と顧問の教師によってふるいにかけられる。その為人数はそれ程多くならないのだ。なりたいという意思は大いに尊重されるべきものだが、能力が伴わなければただの負担だ。出来なかったから辞める、というわけにはいかない。そういった諸々を回避するための策ということだろう。
 
 容姿はそこそこに良くて、成績は常に上位。一桁からは落ちない。
 しかし、如何せん城野は彼女がいる。それは最早公認で、間に割り込む余地はない。城野に想いを寄せる女子は、その想いを胸に秘め、遠くから見つめるのみである。
 
 だが、莉茉にとってはそんなことはどうでもいいことだ。寧ろ拘束を長引かせる元凶である。
 
 城野の話は文化祭についてだった。文化祭が行われるのは夏休み明けの9月で、まだ先のことである。しかし、休みが明けて本番までの準備期間があまり取れないため、夏休み前から話し合いと準備を進める必要がある。
 とりあえず、生徒会と文化祭実行委員の話し合いを来月に設けるとのことだった。
 
「莉茉って文化祭実行委員じゃなかった?」
「……そうだったか?」
「確かそう。自分が何委員かくらい覚えときなさいよね」


 委員会を決めた新学期の頃を思い出す。
 文化祭を盛り上げようなどという殊勝な考えが莉茉にあった筈もなく、全員が必ず委員会に属さなければならないと聞かされて、選んだ委員会が文化祭実行委員だった。選んだ理由は他の委員会が一年を通して仕事があるのに比べ、文化祭の時期でなければ仕事は全くないという打算に満ちたものだった。同じ条件に体育祭実行委員があるが、炎天下の中走り回るような危険性を孕んだ選択をする気はない。
 加えて、祭りごとには意味もなく前に出たがる人間というのがクラスに一人はいるもので、そいつに面倒な仕事を押し付ければ自分は大した労力を強いられることはない。
 そう思って選んだのではあったが、放課後の時間をわざわざその話し合いに潰さなければならないことになろうとは。だが、少しくらいの面倒は甘んじて受けるべきだと、思い直す。
 
 
 壇上で話す城野は、手に持った紙に時折視線を下ろし、その際にずれた眼鏡を中指で押し上げる。その行動は城野を神経質そうに見せた。
 
 ああいうタイプはからかってもあまり面白くないと、莉茉は思っている。それ故に、城野は莉茉の好みではない。



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