理由 3

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 少女がハラハラと見守る中、少年は箸に持ったおかずを口に入れた。瞬間、寄せられた眉根に、少女の顔が曇る。

「ごっごめんね。頑張って作ったんだど……」

 少女は料理があまり得意ではないらしい。指に貼られた絆創膏がそれを物語る。
 項垂れた少女に、少年は慌てて何でもない顔をしてみせた。
 
「美味いよ、これ。うん」

 そう言って、少年は弁当の中身を平らげた。
 その様子に、少女は笑顔でありがとうと言った。

 
 
 
 一つ言うとするなら、この少女は味見という行為をしないのだろうか。していないのならば、美味しいか不味いかもわからないような物を自分の恋人に食べさせているということだ。しているのなら、不味いとわかっている料理を敢えて食べさせているのであって、その不味い料理を前に、果たしてどういう行動をとるのか、試しているのだ。
 もう一つの可能性として、極度の味覚音痴、または味覚障害という場合があるが、そのような設定は書かれていない。よってこの可能性は除外していいだろう。
 
 
 莉茉は玲奈から新しく借りた漫画を読んでいた。
 この間ゲームセンターで取ったぬいぐるみを渡しに行った時、半ば押し付けられるように借りてきた物だ。





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 ぬいぐるみを差し出した莉茉に玲奈は不満そうな顔をした。
 
「どうしてこの二人なの?」
「これしかなかった」
「そっかぁ、じゃあしょうがないけど……」

 本当は黒か緑が欲しかったのだろうが、貰った物なのではっきりと不満を言うことも出来ず、しかし依然不満そうな顔のまま、渋々礼を言った。その様が可笑しくて、可愛くて、莉茉は笑った。それに玲奈は更にむくれる。
 しかし、直ぐに機嫌を戻す。

「写真撮った?」
「……まだ」
「忘れてたでしょ?」
「よくわかったな」
「そこ、嘘でも忘れてないって言うべきだよー」
「そんなことをしても意味が無い」
「あるって!」
「その内撮ってくる」
「本当だよ? 忘れちゃ駄目だよ?」
「わかった」

 いまいち信用ならないという顔をしながらも、玲奈はぬいぐるみのお礼だと言って大量の漫画を持たされた。莉茉は正直もう十分だと思っていたが、お礼だと言われて断ることも出来ず、そのまま持ち帰った。





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 自室で漫画を読んでいた莉茉は、片方の口角だけを器用に上げて、その顔に笑みを作った。
 
 試してみるのも面白い。
 
 
 
 次の日の朝、弁当を作る莉茉の横で、母は驚きの声を上げた。
 
「莉茉ちゃん、それはどうかと思うんだけど……」
「実験だから、問題ない」
「そっ、そう?」

 黙々と作業を続ける莉茉に、これ以上何が言っても無駄だろう。そう悟った母は、朝食の用意に集中することにした。



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