昼食 2

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「で、付き合うことになったってわけ?」
「そう」

 昼休み、場所は屋上。
 梅雨入り前の季節はまだ肌寒い。従って屋上の人気は少ない。正確な人数を言えば二人、である。
 つまり莉茉と結菜の二人だけだ。

「駒川のこと好きだったの?」
「そう思うか?」
「やっぱりか……」
 結菜は呆れたように首を振ると、弁当の卵焼きを口に放った。
 莉茉はその隣でコンビニで買ったおにぎりを頬張っている。具はネギトロ。途中でイチゴ牛乳を口に含む。
 一般的に考えて組み合わせとしてはよろしくない。少なくとも結菜はそう思っている。莉茉を変わり者と評する一因がここにある。勿論他にもたくさんあるが。
 食べ終わってから飲むのならいい。咀嚼して飲み下してから飲むのでもいい。だが、まだ口内にネギトロなんていう生魚が存在している内にイチゴ牛乳を流し込むのはどうなんだと、思うわけだ。

「じゃあこんなとこで私と昼食べてていいの?」
「何か問題が?」
 莉茉がどういうつもりで駒川と付き合うのか、知らないし、知りたくもないが、付き合っているカップルの多くは一緒に昼食をとるものだ。別に世間一般の男女交際をしている高校生が全て昼食を共にしていると言いたい訳ではない。この学校ではそういう風習があるというだけだ。
「駒川と一緒に食べたりしないわけ?」
「そういう提案はされていない」
 提案、には違いないだろうが、やはり間違っているような気がする。この場合、誘い、が正しい。
「交際している男女は昼食を共にしなければならないと、そういう決まりがあるのか?」
「決まりってことはないけど、そういう人が多いってこと」
 莉茉はへえ、と感心したように呟いて、音を立てながらイチゴ牛乳の最後の一滴をストローで吸い上げている。
「それはつまり、今の私と結菜のように?」
「う〜ん、まあそうだけど。ほら、弁当作ってくるとかさ」
「弁当? どうして?」
「そういうもんなんだって」
「そいうもん? ……つまり、あれか、料理ができる、家庭的な女だと、弁当という小道具を用いて主張しようという、そういう魂胆か」
「そういう言い方すると何か身も蓋もないけど、まあそういうことね」
「それは私が作らないといけないものなのか? つまり、女が作らなければならないという決まりでも?」
「決まりはないけど、普通はそうでしょ。何? 駒川に弁当作ってこいとでも要求するつもりなの?」
「許されるなら」
「多分、てか、絶対無理」
 どこの世界に女が男に弁当作ってこいなんで要求するやつがいるんだ。まあ、いないことはないかもしれないが、付き合いたての高校生の間では皆無、の筈だ。そう思う。
 結菜は莉茉と会話をすることで自分の中の常識というものに一抹の不安を覚えてしまう。何て恐ろしい。

「最近は料理ができる男がモテルんだろう?」
「そういう問題じゃないって」

 食べ終わったゴミを入っていたコンビニの袋に入れ、世の中にはコンビニという便利なシステムがあるのに、態々睡眠時間を削ってまで早起きして弁当を作ることに何の意味があるんだろう、などと呟いて、袋の取っ手を持ってくるくると振り回す。
 根本的に、日向莉茉という人間が男女交際なんてものをすること自体無理があるのだと、結菜は思わずにはいられなかった。そして、関わりあいになりたくないと、そう切に思っていたのに、どうやらそれは叶わないらしいと気づいて溜息を吐いた。
 そんなこと、物心付いたときからわかっていたことではあるのだが、人間、認めたくないこともあるのだ。


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