昼食 1

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 日向莉茉という女子生徒の評価は大人しいの一言に尽きる。
 一人の友人とだけ話をし、染めていない黒髪と丈の詰めていない膝下のスカート。クラス内での発言権を持っているわけでもなく、ただ高校の一クラスに存在しているだけの一生徒。唯一特出している点を挙げるとするならば、ただ一人の友人が美人であるということだけだ。その所為で美人とはいかないまでもそれなりに整った容姿をしている莉茉は完全に引き立て役となっていた。
 しかし、当の本人はそのことを全く気にしていない。
 大人しいというのは周囲の評する莉茉の表層であって、実際の莉茉とは違う。
 唯一の友人であり、幼馴染として十年以上の付き合いになる楠家結菜の評するところでは、変わり者、変人、変態、と一貫して変、である。


 登校するなり莉茉があの駒川隼人に告白したという噂を聞き、全く不本意ながら唯一の友人として位置づけられている結菜は質問攻めにあった。
 莉茉が話しかけづらい雰囲気を持っているというだけでなく、単にまだ登校していない所為だろう。
 驚いているのはこちらの方だと思いながら、知らないと追い返す。
 駒川隼人は確かに格好良いとは思うが、次々と女をとっかえひっかえするのはどうかと思うし、結菜としては遠慮したい相手だ。莉茉がその隼人に恋愛感情を抱いていたというような片鱗は全くと言っていいほど見当たらなかった。昨日彼女と別れたらしいという話を近くにいた女子がしていたのを耳にした記憶があるが、その際の莉茉の様子にこれといった変化、寧ろリアクション一つ無かった。

 そもそも、告白というものから莉茉は無関係に生きていると結菜は思っている。
 恋愛に興味を示さないのだ。だから今回のことは何かの間違いか、それとも、またあの病気か。
 どちらにしてもやっかいなことには首を突っ込まないのが結菜のモットーである。
 こと莉茉が関わっているとなれば尚更。





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 莉茉が教室に入ると、俄かにざわついた。
 それを内心で面白く観察しながら莉茉は自分の席に着く。
 だがしかし、自分がこのように注目されることはあまり好ましくないな、と改めて思う。まあ、所詮は瑣末な問題だとも思うが、学校生活が余計な騒音に紛れているよりは、静かな空間に身を置きたい。


「駒川に告白したって本当?」
 早速、事の真相を確かめに莉茉の元に結菜がやってくる。
「うん」
 意図して、にっこりと、笑って応える。

 その瞬間、ざわりと結菜の全身に鳥肌が立った。
 誰だこいつは、と思えるような変わりようだ。
 はっきり言って気持ちが悪い。
 莉茉は朝から唯一の友人ににこやかに対応するような性質を持ち合わせていない。少なくとも、結菜は持っていないと断言できる。唯一の友人である自分が断言すれば、それはもう事実だということだ。その筈なのだが。
「何、考えてんの?」
 言った声が少し裏返っていた。
「何も考えてないよ、結菜ちゃん」
 結菜の顔が一瞬引き攣り、次の瞬間脱力するように机に突っ伏した。
「頼むから、ちゃん付けはやめて」
 『結菜ちゃん』は想像以上にダメージをもたらしたらしい。
 莉茉はくすっと呆れたような笑みを浮かべ結菜にしか聞こえない声で囁く。

「わかったよ、結菜」
 それは普段結菜が聞き慣れた、何処か人をくったような声だった。
 それに安堵してしまう自分が、追い討ちを掛けるように結菜にダメージをもたらした。


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