はじまりの風景

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「あ、あの……私、駒川君のことが好きなんです。付き合ってください」

 放課後の教室、既に人気は無く、二人の生徒がいるだけだ。そこで繰り広げられているのはお決まりの告白風景。告白する女子生徒の頬は赤く染まっている。それが窓から射し込む夕日の所為かどうかなんて、分かり切ったことだろう。
 少し顔を俯けて、返事を待っている。
 一方でそれに対峙する男子生徒は不機嫌な顔を隠そうともせず、今の現状が心底鬱陶しいと思っていることが丸分かりだ。例え断るとしても、もっと真摯な対応をしても罰は当たらないと思えるほどに、その態度はあからさまだった。

 告白されている男子生徒の名は駒川隼人という。
 フリーの時に告白されれば絶対に断らない。
 それが駒川隼人という人間の学校内での定説である。

 格好良いという理由だけで、何人もの女子に告白されては付き合って、あっという間に別れる。

 最長一ヶ月、最短三日。

 正直最低な男だが、告白者は次から次へと湧いて出るように現れる。思春期の少女達にとって、顔が良いというのはそれだけで価値があるのだろう。

 今日も彼女と別れたという話を聞きつけた一人の女生徒が告白をした。
 それに素っ気無く承諾し、呆気なくカップルが成立する。

 さあ、今度は何日もつだろうか。





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 徹夜の練習の成果にも拘らず、駒川隼人は表情を少しも変化させることはなかった。

 『はにかみながら告白する女子とその様子にドキッとしてしまう男子』が告白テーマだったにも関わらず、だ。
 初めは気味悪がっていた兄を無理矢理付き合わせ、最終的には十人中六人は堕ちるという微妙な評価を下された。半分より多いことを喜ぶべきか、状況的に例えお世辞でも九割以上の評価をして勇気付けるべきじゃないかと不満を言うべきだったか。
 ともかく、ここまでやって眉一つ動かさず、始終やる気のなさそうに、どうでも良さそうに応対するとはどういうことだ。
 ちょっと、否、かなり腹立たしいが、まあ、結果的には良しとしよう。


 放課後の誰もいなくなった教室で、一人笑う。

「精々楽しませてくれよ、駒川隼人君」

 ついさっきまで、頬を染めて告白をしていた少女は、口調も表情もガラリと換えて呟いた。


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